納豆はニオイ強い系発酵食品


納豆のススメ

 納豆は日本の伝統的な発酵食品であり、ニオイやネバネバの癖はあるものの健康にとってプラスであることは間違いありません。

 

 現代栄養学的に見ても、抗老化・抗加齢(アンチエイジング)効果や消化吸収の促進、豊富なタンパク質・ミネラル・ビタミン群など様々な栄養素を含んでいます。

 

 さらには血液サラサラ効果があり、血栓を溶かす作用によって心筋梗塞や脳梗塞などのリスクも下げることが期待されます。

 

 江戸時代の文献なども紹介しながら納豆の魅力に迫りたいと思います。

 

 


『明和志』の「納豆」

 江戸末期、青山白峰による著作『明和誌』(文政五〔1822〕年刊)に「甘酒と納豆」についての記述があります。

 

『明和志』の「納豆」

 

【原文】


同年のころ、御ぞんじあまざけといふ見世、並木にあり、今所々醴見世(あまざけみせ)の元祖なり。すべてあまざけ又納豆など、寒中ばかり商(あきな)ふことなるに、近きころは、土用に入と納豆を賣(うり)きたる。あまざけは四季ともに商ふこととなる。

 


【解説】


 ここでいう「同年」とは、明和五〔1768〕年のことをいっています。

 上の文では、甘酒や納豆は(江戸時代末期の時点から見て)昔は冬のみ売っていたのに(江戸末期の)今では夏の土用の日にも納豆が売られるようになった、としています。甘酒は一年中売られている、とも言っています。

 



『世のすがた』の「納豆」

 他にも『江戸の庶民が拓いた食文化』が引用する『世のすがた』〔未刊随筆・天保四(1833)記〕では次のようにいいます。

【原文】


納豆は寛政の頃(一七九〇頃)、冬至より売りそめけるが、追々早くなりて、八九月頃より売りはじむ。文政の頃(一八二〇頃は)、土用の明るを待ちて売り初めしを、天保(一八三〇頃)に至りては、土用に入る頃よりはや売り来る。また、文政の頃までは、たたき納豆とて、三角に切り、豆腐、菜まで細かに切りて、直に煮立てるばかりに作り、薬味まで取り揃へ、壱人前八文ずつに売りしが、天保に至りては、たたき納豆追々やみて、粒納豆計(ばか)りを売り来る。


【解説】

 納豆は、寛政年間〔1789年~1801年〕の頃は、冬至から売っていたが、だんだんと時期が早くなって8~9月頃から売り始めるようになった、と言っています。

 さらに文政年間〔1818年~1831年〕の頃までには、夏の土用の日が明けてからインスタント食品の元祖とも言える「たたき納豆」という形で販売されていた、と書かれています。「たたき納豆」として叩き潰した納豆に豆腐や青菜や薬味まで加えてあとは煮るだけというインスタント食品の形で、一人前八文で売られていた、とあります。

 天保年間〔1830年頃〕になると夏の土用の日に入る頃から販売されるようになり、「たたき納豆」が廃れて「粒納豆」ばかりが売られるようになった、と書かれています。

 『世のすがた』『明和誌』と同じような内容ですが、さらに詳細に「たたき納豆」「粒納豆」という販売方法にも触れられているのが興味深いです。インスタント食品の元祖とも言える販売形式になります。

 



守貞謾稿』の「納豆」

 

 


【原文】

 大豆ヲ煮テ室ニ一夜シテ賣之。昔ハ冬ノミ近年夏モ賣巡之。汁ニ煮或ハ醤油ヲカケテ食之。京坂二ハ自製スルノミ。店賣モ無之欤(歟)。葢寺納豆トハ異ナル。寺納豆ハ味噌ノ属ナリ。【『守貞謾稿』巻六】

 此賣リ巡ルモノハ濱名納豆及ビ寺納豆ト云テ毎冬三都共寺ヨリ曲物ニ入テ旦家(=檀家)ニ贈ル納豆トハ別製ナリ。【『守貞謾稿』巻六】


【解説】

 納豆のつくり方・売り方・食べ方、そして種類について書かれています。『守貞謾稿』でも「昔は冬のみ、近年夏もこれを売り巡る」としていて『明和誌』『世のすがた』と同じように言っています。

 『守貞謾稿』の特色として江戸と京阪(京都と大阪)との比較をして書いてくれている点にあります。納豆は“江戸”では売り歩いて販売しているけれども“京阪”では自家製があるだけで売り歩いて販売することはない、としています。

 

 

 

『本朝食鑑』の「納豆」

 

『本朝食鑑』の「納豆」

 

【原文】

〔気味〕甘鹹。微温。無毒。
〔主治〕下氣。調中。進食。解毒。

 


【解説】

 納豆の性質は「味は、甘く鹹(しおから)い。微(わず)かに温めて、無毒」。効用としては「氣を下し、中を調(ととの)え、食を進め、毒を解す」としています。

 要約すると、気の巡りを良くし、胃腸を調整し、食欲を促進し、解毒作用を持つ、という意味になります。江戸時代の本草学的には、そのように納豆の効用があると考えられていた、ということですね。

 

 


現代栄養学的な納豆の効能

抗老化・抗加齢(アンチエイジング)効果

 現代栄養学的には抗老化・抗加齢(アンチエイジング)作用を期待できます。

 老化の原因として「酸化」「糖化」「慢性炎症」などが関わっていると言われています。なのでアンチエイジングには抗酸化作用のある食品の摂取や糖質制限をすることなどが大切なポイントになります。


アンチエイジング成分:ポリアミン

 ポリアミン【polyamine】は「アミノ酸の一種であるアルギニンやオルニチンによって体内で合成される成分」と説明されます。

 ポリアミンの「ポリ(poly)」は“多数の・複数の・多種の”という意味になり、「アミン(amine)」はアンモニア(NH3)の水素原子を炭化水素基で置換した化合物の総称です。小難しい。。。

 とにかくポリアミンはアンチエイジング成分である、と言われています。そして、納豆は高ポリアミン食としてかなり期待されます。


消化吸収の促進

 納豆菌によってつくられたデンプン分解酵素・タンパク質分解酵素・脂肪分解酵素などの消化酵素がよく働くことで効率良く栄養成分が吸収されます。


豊富なタンパク質

 豊富なタンパク質のおかげで必須アミノ酸などバランス良く摂取することができます。


豊富なミネラル

 大豆にはカルシウム・カリウム・マグネシウム・鉄・銅・亜鉛などが豊富に入っているのですが、大豆から納豆になることで、より効率良く栄養成分を吸収することができます。


豊富なビタミン群

 納豆には、ビタミンB1・B2・C・E・Kなどたくさんのビタミンが含まれています。

 ビタミンEには、血流改善やコレステロール値を下げる効果だけでなく抗酸化作用・抗炎症作用・抗動脈硬化などもあると言われます。

 ビタミンKは、止血(血液凝固)に関わっています。ビタミンKとビタミンDを同時に摂取することで骨密度が増えて骨粗鬆症の予防になるとも言われています。


ドロドロ血液をサラサラ血液へ!

 納豆のネバネバに含まれるナットウキナーゼは血栓(血の塊)を溶かす作用のある酵素になります。血栓が心臓の血管でできると狭心症や心筋梗塞などの心臓疾患になりますし、脳の血管を詰まらせれば脳梗塞などを引き起こしてしまいます。

 納豆を日常的に摂取することで心臓疾患や脳梗塞などの予防にもつながります。


血圧を下げる効果も!

 数ある降圧剤のひとつにACE阻害薬がありますが、血圧を上げる物質の働きを抑えることで血圧を下げます。ACE(アンジオテンシン変換酵素)を阻害する作用が納豆にも含まれます。なので結果的に血圧を下げる効果も期待できます。


ワーファリン服用中の人に納豆はNG!

 ワーファリンは「抗凝固剤」というタイプの薬です。血液をサラサラにすることで血栓をできにくくする効果があるので心筋梗塞や脳血栓症などの治療や予防に使われます。

 前述したように納豆を食べるとビタミンKには「血液凝固」作用があり、ワーファリンには「抗凝固」作用があるので相反する作用になります。なのでワーファリンの薬の効果を弱めてしまうことになるので「ワーファリン服用中の人に納豆はNG」となります。

 

 

 

参考文献


・『江戸の庶民が拓いた食文化』渡辺 信一郎【著】、三樹書房
・『納豆一日一パックの若返り術』早田 邦康【著】
・『発酵は力なり』小泉武夫【著】、NHKライブラリー

・『本朝食鑑』(人見必大〔著〕、島田勇雄〔訳注〕)東洋文庫296 平凡社