睡眠障害(不眠症)の鍼灸治療


睡眠障害とは

 

 睡眠障害と言えば、不眠症が一番イメージしやすいと思います。もちろん不眠症は睡眠障害の代表的な症状のひとつですが、他にも過眠症、睡眠時無呼吸症候群(SAS)、ナルコレプシー(居眠り病)などなどいろいろあります。ここでは最も代表的な不眠症を中心に紹介します。

 


不眠症とは

 

 不眠症は、入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害の4つのタイプに分けることができます。1つだけ当てはまる人もいれば、2つ3つと複数当てはまる人もいます。

①入眠障害:寝つきの悪い状態になります。布団に入ってもなかなか寝付けず、30分以上や1時間以上もかかって入眠します。睡眠障害(不眠症)の代表的な症状になります。

②中途覚醒:睡眠途中で目が覚めてしまいます。一晩に何度も目覚めるのはつらいものです。中途覚醒しても、またすぐに入眠できればよいのですが、なかなか寝つけないと苦しいケースになります。中高年の患者さんに中途覚醒の訴えが多い傾向があります。

③早朝覚醒:朝早く目が覚めてしまいます。体内時計のリズムの乱れによると言われています。

④熟眠障害:熟睡した感じがしません。睡眠の質に問題があると考えられます。例えば、睡眠時無呼吸症候群(SAS)など。


睡眠障害は国民病

 厚生労働省ホームページ「睡眠障害」によると、日本の一般成人の約21%が不眠に悩んでいる、とのことです。実に一般成人の5人に1人が睡眠についての悩みを抱えていることになります。

 

厚生労働省HPの「睡眠時間の国際比較」の図表を引用

厚生労働省HPの「睡眠時間の国際比較」の図表を引用

 

 同じく厚生労働省HPの「睡眠時間の国際比較」の図表(上図)を見ると、日本人の睡眠時間の短さが目立ちますし、同じく厚生労働省ホームページ平成29年「国民健康・栄養調査」の結果でも「6時間未満の者の割合は、男性36.1%、女性42.1%」であると指摘されています。


「睡眠負債」は眠りの借金

 

 2017年に出版された『スタンフォード式 最高の睡眠』(西野精治)は大きなインパクトを与えました。「睡眠負債」という言葉を有名にするキッカケになったように感じます。

 

 『睡眠負債』(NHKスペシャル取材班)でも減り続けている日本人の睡眠時間について、日本国民の約4割が1日の睡眠が6時間未満であることを指摘しています。他にも、睡眠負債が認知症リスクを高めることなど非常に恐ろしい事実も紹介しています。この本は、2017年6月18日に放送されたNHKスペシャル『睡眠負債が危ない ~“ちょっと寝不足”が命を縮める~』の内容をもとに加筆して書籍化されたものですが、もっと睡眠不足のリスクが広く認識されるべきだと思います。


よく眠るためのセルフケア

 

 基本的には、睡眠負債を改善するためには眠ることでしか解消することはできません。睡眠の量が不足していれば、睡眠時間を増やすのが最適解になります。その他に工夫することができるのは、睡眠の質を向上させる、ということになります。

 睡眠の質を改善するためには生活スタイルの見直しが必要になります。理想を言えば、仕事とプライベートの時間のバランスを見なおしたい所ですが、仕事の時間は自分の一存ではどうにもならない部分もあるでしょう。なので、現実的な対策としてのテクニックをお伝えできればと思います。薬物療法については、できるだけ薬に頼らないで不眠症を改善させたい人が多いと思いますので省略します。

運動療法

 

 頭ばかり使って体を動かしていない人には、運動療法はとても効果的だと思います。疲れればよく眠れるというのは、当たり前のようですが、大人になるとその当たり前ができていない生活スタイルになっているのではないでしょうか?一番の課題は、継続して行えるかどうかがポイントになります。いつもより多く歩くだけでもよいのです。例えば、一駅前で降りて歩く、など。

呼吸法

 

 呼吸は、吐く(呼気)ことと吸う(吸気)ことを繰り返していますが、吐く時に副交感神経、吸う時に交感神経が働く仕組みになっています。この原理をうまく活用して「吸う」よりも長く「吐く」ことを意識して実践すれば、副交感神経が優位になり、心身ともにリラックスすることができます。ココロもカラダもゆるめることにつながります。自宅で出来るセルフケア<呼吸法・気功・ストレッチ>ではさらに詳しく紹介していますのでご参照ください。

認知行動療法による不眠症対策

 

 認知行動療法の知見を活用した不眠症対策になります。思い切って今までの常識をかなぐり捨てる感じですね。「眠くなるまで眠らない」を徹底的に実践できれば効果的だと思います。

・眠くなった時だけ寝床に就く
・寝床は眠りと性生活のためだけに。他のことを一切やらない
・眠気がなければいったん寝床を離れる
・眠れそうになるまで寝床に戻らない
・10分経っても入眠できなかったらほかの部屋に移る
・それでも眠れない時は何度でも上記を繰り返す
・平日も休日も必ず毎日同じ時刻に起床する
・日中は眠くなっても昼寝をしない
(『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』p158より引用)


睡眠障害の鍼灸治療について

 

 睡眠不足は今まで考えていた以上に健康を害することが分かってきました。その流れがあっての「睡眠負債」という言葉が出てきたのでしょう。どんな病気も不眠症があると治りが悪くなることは患者さんを治療しながらずっとずっと感じてきたことです。

 

 逆に言えば、睡眠不足が解消され、質の高い睡眠が得られるようになると自然治癒力が高まり、病気の治り方も良くなっていきます。そのことについては、うつ病と鍼灸治療の一症例でも触れましたのでご参照ください。

 

 いろんな角度から睡眠を捉えることができますが、自律神経のバランスをよくすることは快適な睡眠につながると感じます。現役世代の人たちのほとんどは自律神経のうち活動モードの交感神経が過剰に働きすぎの傾向があります。お休みモードの副交感神経が抑えられたままですと、不眠症につながります。

 

 睡眠障害の鍼灸治療で大切なポイントになるのは、首こり肩甲骨周りのコリ、そして自律神経のバランスです。自律神経のバランスを整える上で、首こり・肩甲骨周りのコリの改善は必須です。自律神経は交感神経・副交感神経ともに脊髄に沿って分布していますので、背骨(頚椎・胸椎・腰椎)周りのコリを緩めることは自律神経を整えるのにとても効果的なのです。


 前述した運動療法・呼吸法・認知行動療法などを試しつつ、鍼灸治療も併用してみたい方はご連絡ください。

 

 

 

腰痛 参考文献

 

・『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人、三島和夫)
・『睡眠負債』(NHKスペシャル取材班)
・『好きになる睡眠医学 第2版』(内田 直)

 

 

 

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