首こり・首痛の鍼灸治療



首こりの鍼灸治療


首こり(首コリ)

 

つらい首こりの原因は

 

 2019年2月13日に放送されたNHKの情報番組『ガッテン!』では《“新原因”発見! 衝撃の肩・首のこり改善SP》というテーマを取り上げ、「後頭下筋群」という筋肉がコリ固まることで、頭痛・めまい・吐き気などの症状を誘発することがある、と説明されていました。番組の中でも、後頭下筋群は奥深くにある筋肉なので針治療を紹介していました。
 もちろん頚椎症や頚椎椎間板ヘルニアなどの「骨」関連の首こりもありますが、今回は最も鍼灸治療が効果的な「筋肉」関連の首こりについて書いてみたいと思います。

 


首への強すぎるマッサージはNG

 

 首こりの主な原因が後頭下筋群のコリだとすれば、指圧やマッサージよりもピンポイントで奥深くまで届く針治療の方が効果的であろうと思います。また、どの筋肉に対しても強すぎる指圧やマッサージはNGです。強すぎるマッサージは筋肉の細胞を破壊するだけでダメージが大きすぎるからです。まさに“揉み返し”がその状態です。


 首の骨=頚椎には脊髄や末梢神経、頚動脈・椎骨動脈などの重要な血管が通り、筋肉も付着しています。首はとても繊細なのでグリグリと強いマッサージをするのは実はとても危険な行為になります。例えば、強すぎるマッサージや指圧をしたことがきっかけになり、頚動脈の血管の内壁にこびりついていたプラークが剥がれて脳梗塞を引き起こしてしまうこともあります。

 


首こりの鍼灸治療

 

 首こりの主な原因が後頭下筋群にあるケースでは、後頭下筋群のコリを針治療で筋肉を緩めることで楽になることが多いですが、それだけだと再発しやすいように感じます。


 鍼灸医学では首こりの問題が「首」だけにあるとは考えません。首プラス肩背部、腰や臀部(おしり)なども影響して首こりの症状を引き起こしていると捉えます。解剖学的に見ても、背骨は首から腰まで1本でつながっています。例えば、腰椎が左方向にズレると頚椎(首の骨)は右方向にズレて全体のバランスをとろうとすることはあり得るのです。


 なので首こりを改善するための鍼灸治療ですが、首はもちろんそれ以外の肩や背中、腰、臀部(おしり)などにも針したりお灸したりします。それどころか手腕や足のツボに鍼灸することもあります。

 


首こり対策は日々のセルフケアも大切

 

 治療して改善してもすぐに悪い状態に戻ってしまうのはとても残念なことです。なので何とか改善して良い状態をキープしたいものです。首こりの原因は、ほとんどが日々の生活スタイルの中にあります。日常的に首の負担になる動作があって、例えば仕事中のパソコン作業やスマホ使用時の姿勢の悪さなどは多くの方に当てはまるのではないでしょうか?


 治療によって良い状態になるきっかけになっても、日常的に首に負担のかかる生活スタイルによって悪い状態に戻ってしまいます。毎日の生活の中で首のコリが蓄積するのなら、あとは治療に加えて首のセルフケアをおススメします。

 

 


『ガッテン!』で取り上げられた首こりの運動法

 

 NHK『ガッテン!』の“新原因”発見! 衝撃の肩・首のこり改善SPで紹介されたセルフケア法です。お風呂に入って体が温まった後に実践した方がより効果的だと思います。
 基本的には、目を閉じて行います。座りながらでもいいですし、寝ながらでもOKです。

イヤイヤ運動:目を閉じてゆっくり小さな角度で左右に動かします。20往復で1セットです。

うなずき運動:首の後ろの筋肉(後頭下筋群)を軽く縮めるイメージです。目をつむってゆっくりと「うなずく」ような上下の動きを行います。ポイントは少し上を向いたうなずきをして首の後ろの筋肉を伸縮させます。

アゴ引き運動:後頭下筋群のストレッチになります。3秒間伸ばしてから緩めます。呼吸は自然にして、息は止めないようにしましょう。3秒間のリラックスを10回で1セットになります。

 1日3セットすることをおススメします。改善したい首のこりの筋肉に意識を向けながら実践するとより効果的です。3セットが難しければ1セットでもかまいません。

 

首・肩のストレッチ体操


セルフケアしても改善しない場合は鍼灸治療を!

 

 首こりの運動法などでセルフケアしても改善しない場合は、治療の選択のひとつとして鍼灸治療もあります。やはり首こりだけが問題という患者さんは珍しく、だいたい肩こりや腰痛なども併発していることがほとんどです。

 

 人体というのは不思議なもので、つらさを感じるのは一番悪い患部の一カ所だけで、二番目に悪い所はあまり感じていないことが多いようです。それでも触診すると圧痛が首・肩・腰・腕など痛いところだらけというケースが多いものです。体は連動してつながっています。骨も筋肉も筋膜もです。なので首だけ悪い、腰だけ悪いというケースは非常に少ないのです。

 

 前述したように、頭痛・めまい・吐き気などの症状が、実は長引く首こりのせいで出てしまっているかもしれません。鍼灸治療でお役に立てればと思っております。

 

 

 

首こり(首コリ) 参考文献

 

・『自分でできる! 筋膜リリースパーフェクトガイド 筋膜博士が教える決定版』 竹井仁

・『「さする&伸ばす」で痛みを解消! 筋膜ストレッチ』 小井手智啓
・『1日1分 筋膜リリース -痛みとこりがラクになる』 滝澤幸一
・『慢性疲労は首で治せる!』 松井孝嘉

・『枕革命 ひと晩で体が変わる』 山田朱織

 

 


頚性神経筋症候群(CNMS:Cevical Neuro Muscular Syndrome)


ストレートネック

頚性神経筋症候群(別名:首こり病)とは

 首こりや背中のこりが自律神経のバランスを崩してしまうことは長年治療をしていると痛感させられることでもあります。ひどい首こり・背中こりは、いわゆる「自律神経失調症」を引き起こすと考えられます。東京脳神経センター理事長で脳神経外科医の松井孝嘉氏が提唱したのが「頚性神経筋症候群」であり、別名「首こり病」とも呼ばれています。

 

 頚性神経筋症候群は、慢性的な首の筋肉の過緊張によって引き起こされる、とされています。首の痛みのみならず、頭痛・めまい・吐き気・不眠・全身の倦怠感など自律神経のアンバランスに起因する様々な症状が出てしまいます。

 自律神経失調症も分かりにくいのですが、頚性神経筋症候群も「症候群」であって病名ではありません。言葉もなんだか難しいですよね。多くの人が経験しているかもしれませんが、長時間の事務作業で首のうしろの筋肉が硬くなり、痛いような重苦しいような感じがする。または、長時間のPC作業で猫背の姿勢が続き、目も酷使したために首こりになる。

 

 そうすると頭痛・めまい・吐き気の症状が出ることもありますし、心がイライラして落ち着かないこともあります。抑うつ状態になる方もいますし、不眠症になることもあります。それらの一連の諸症状をまとめて命名したのが「頚性神経筋症候群」ということになります。

 

 


首こりと後頭下筋群

 

 首や背中の筋肉のこりは、解剖学的には、後頭下筋群・脊柱起立筋・僧帽筋などの筋肉に張りやコリがある、とおおまかに捉えることができます。2019年2月13日に放送されたNHKの情報番組『ガッテン!』では、首こりは「後頭下筋群」の筋肉のトラブルが主な原因となっていると紹介していました。後頭下筋群は、首こりに起因する緊張型頭痛にも関係しています。

 

 


首こりと鍼灸治療

 

首コリの経穴(ツボ)

 

 首のうしろに位置する天柱風池という名のツボ(経穴)は、首こりや緊張型頭痛の改善にとても役立ちます。天柱風池のツボは『ガッテン!』で紹介された後頭下筋群のエリア上にあります。これらのツボを刺激して上手に筋肉をゆるめると、患者さんからは「頭重感が軽減してスッキリした」と言われたり、「視界が明るくなった」と言われることがよくあります。首のうしろで何か詰まった感じがしていたのが、詰まりが取り除かれて開通した感覚になるようです。後頭下筋群のコリの治療は、即効性があるのが特徴になります。良くも悪くもそれだけ後頭下筋群のコリの影響が大きいということだと思います。

 

 鍼灸治療を通じて得られた経験則から言えることですが、首こりや背中のこりがひどくなると、分かりやすくイライラして不機嫌になったり怒りっぽくなるタイプの方たちが一定数います。首こりや背中の張り・こりが肉体的な苦痛にとどまらず、精神的にも作用します。イライラの多少はあるものの、ほとんどの人に当てはまるのかもしれません。「体」の状態が「心」につながっている。まさに「心身一如」です。

 

 まずはストレッチや体操などのセルフケアで首こりに対処してみてください。それに加えて、鍼灸治療もご活用いただければ、と思います。

 

 

 

参考文献

 

・『自分でできる! 筋膜リリースパーフェクトガイド 筋膜博士が教える決定版』 竹井仁

・『「さする&伸ばす」で痛みを解消! 筋膜ストレッチ』 小井手智啓
・『1日1分 筋膜リリース -痛みとこりがラクになる』 滝澤幸一
・『慢性疲労は首で治せる!』 松井孝嘉

・『枕革命 ひと晩で体が変わる』 山田朱織

 


寝違え(寝違い) 寝違え(寝違い)の鍼灸治療


寝違え(寝違い)

寝違え(寝違い) 寝違えとは

 

 寝違えは、文字通り、就寝中に発症し、起床した時に首まわりの筋肉が痛いのに気づく、というケースがほとんどです。頚部の筋肉部分に急性炎症が起こっている状態です。首を動かそうとすると、時に激痛を伴います。可動域が狭くなり、首が回らなくなったりもします。「寝違え(寝違い)」という言い方は俗称であり、医学的には「急性疼痛性頸部拘縮」と呼ばれます。

 


寝違え(寝違い) 寝違えの原因

 

 寝違えの典型例は、寝ている時に首に負荷のかかる姿勢で寝ていたために頚部の筋肉に急性炎症が起きてしまったというものです。実際には、首の筋肉だけでなく、肩や肩甲骨まわりの筋肉もいっしょに痛んでいることの方が多いです。

 日本整形外科学会HPによれば、検査や画像ではハッキリと特定できていない、としながらも、①筋肉の阻血(血液の供給が不足)、②疲労による筋肉の痙攣、③頸椎の後ろの関節(椎間関節)の袋(関節包)の炎症などの原因が考えられる、としています。


寝違え(寝違い) 良い睡眠を!

 

 寝違えが睡眠中に起こることを考えれば、「寝具」が非常に大切なことが分かります。もちろん個人差はありますが「枕やマットレスを変えたら首や肩こりがとても楽になった」という患者さんからの話はけっこう耳にします。逆に「枕専門店でオーダーメイドで枕をつくってもらったのにしっくりしない」という話を聞くこともあります。
 一般的に、人は一日のうちの1/4~1/3が睡眠時間です。それはそのまま人生の1/4~1/3を睡眠しているということです。改めてそう思うと、質の良い睡眠ができる人とできない人では、体の健康はもちろん心の健康の面でも大きな差が出てしまうことは想像に難くないでしょう。
 眠りを誘う睡眠促進ホルモン・メラトニンを効率良く増やすことが安眠につながります。それを邪魔してしまうのが就寝前のスマホです。ダメな理由は、メラトニンの増加を抑えることになってしまうからです。特に寝つきの悪い人はできるだけ控えましょう。

 


寝違え(寝違い) 寝違えの鍼灸治療

 

 寝違え=「首」の問題というイメージが強いかもしれません。実際には「首」以外にも肩甲骨(上縁・内縁)まわりの筋肉にも圧痛が出ていたりすることが珍しくありません。寝違えが「首」だけの問題であることの方が少なくて、肩や肩甲骨まわりの筋肉もいっしょにダメージがあることの方が多いのが現実です。

 実際に治療する場合は、急性期か、回復期かによって違います。

 急性期の寝違えの首はまだ炎症も残っていてデリケートなので、できるだけ首以外で圧痛やコリコリなどの反応があるツボを優先的に探ります。その反応点=治療点になることが多いです。
 回復期の寝違えの治療は、血流が悪いままだと筋肉のこわばりも残り、回復が遅れますので、首・肩・肩甲骨まわりの筋肉をゆるめるツボを探りながら治療していきます。固まった筋肉が緩めば、血流も改善し、首の可動域も広がり、患者さんの気持ちも楽になります。いつまでも症状を抱えたままであること自体が精神的にもストレスなので早期に治療をはじめることが大切です。

 実際の寝違えの鍼灸治療では、阿是穴と呼ばれる圧痛点をツボとして使ったり、関連痛を引き起こすトリガーポイントなどが治療点としても有効であることが多いです。最近ではすっかり有名になった「筋膜リリース」の考え方も有用です。一言でいえば、筋肉や筋膜というのは“つながり”が大切である、というです。

 


寝違え(寝違い) 寝違えの考察&予防法

 

 「寝違え」が引き起こされる原因としていつも感じることがあります。それは、なるべくしてなっている、ということです。前述したように、首だけのガチガチなコリだけでは「寝違え」が起こることは少ないこととも関連しています。その理由としては、首・肩・肩甲骨まわりの筋肉は連動しているからです。

 「寝違え」の状態を考えると、おもに首・肩・肩甲骨まわりの筋肉が連動してダメージを受けてしまっている状態と考えることができます。首だけのコリ、肩だけのコリであれば、「寝違え」まで悪化することなく、ただの慢性的な首こり・肩こりで済んでいるケースが多いように思います。首・肩・肩甲骨などが皆ガチガチな状態を放置してしまうと、何かをキッカケにして「寝違え」を引き起こすのだろうと思います。首だけがガチガチでも、肩の筋肉が柔軟であれば、そこに「遊び」=クッション性ができるので「寝違え」を予防できるのではないかと推測します。

 自宅でできるセルフケア法としては「筋膜リリース」がはじめやすいかと思います。YouTubeなどの動画でも確認しやすいので。個人差があるが故に、どんな健康法にも相性があります。そして、筋膜リリースにも賛否両論ありますが、実践してみて改善の実感があれば続ければ良いし、無ければ止めればよい話なのだと思います。

 

 

 

寝違え(寝違い) 参考文献

 

・『自分でできる! 筋膜リリースパーフェクトガイド 筋膜博士が教える決定版』 竹井仁

・『「さする&伸ばす」で痛みを解消! 筋膜ストレッチ』 小井手智啓
・『痛みとこりがラクになる 1日1分 筋膜リリース』 滝澤幸一
・『慢性疲労は首で治せる!』 松井孝嘉

・『枕革命 ひと晩で体が変わる』 山田朱織