アナトミー・トレインとは


 

首こり(首コリ) アナトミー・トレインとは

 アナトミー・トレインは、筋筋膜経線とも表記されます。漢字だらけで何だかわかりませんね。

 「筋筋膜」は筋と筋膜、「経線」「経」は“たていと(従絲)”であり、「線」はラインなので、“筋・筋膜の縦のライン”の意味になります。「経緯」の「経」が縦糸(たていと)、「緯」が横糸(よこいと)の意味です(白川静『字統』に拠る)。

 

 アナトミー・トレイン(Aanatomy Trains)を直訳すれば、anatomyは“解剖”、trainは“列車”なので“解剖列車”です。

 つまりアナトミー・トレインとは、筋膜のつながりを鉄道路線図のように捉えたものです。

 

 もっと詳しく言えば、人体を走行する筋膜のつながり(筋筋膜経線)を鉄道路線図に見立てて、姿勢や運動を制御する筋・筋膜の機能やそれらの歪みによって起きる機能障害などを解説しています。アナトミー・トレインとは、“筋膜のつながり”を最重要視している解剖学になります。

 実は、鍼灸医学には二千年前から「経筋」という概念があり、筋膜のつながりを意識してきました。筋肉は単体で作用しているわけではなく、連動しているという訳ですね。なので、例えば、ギックリ腰の鍼灸治療だからといって腰だけを治療するのではなく首・肩・背中・下肢なども一緒に治療します。

 昔から鍼灸医学の経脈(経絡)は、鉄道路線図に見立てて解説されてきました。例えば、経脈のライン上の“気の流れ”が「線路」、“ツボ(経穴)”が「駅」というように。

 解剖学でもそれと同様の身体の見方がされるようになり、筋膜のつながりを重視するアナトミー・トレインが世に出てきたのです(下図「アナトミー・トレインと経脈(膀胱経)」を参照)。

 

アナトミートレインと経脈を比較するための画像を『アナトミー・トレイン 第3版』より引用

■『アナトミー・トレイン  第3版』より引用

 

 

首こり(首コリ) そもそも「筋膜」って何?

 当たり前のようにアナトミー・トレイン(筋筋膜経線)の説明で「筋膜のつながり」の重要性を強調してきましたが、そもそも「筋膜」とは何者なのでしょうか。

 筋膜は文字どおり「筋肉を包み込んでいる膜」のことです。イメージとしては、魚肉ソーセージを包み込むフィルムが筋膜に該当します。

魚肉ソーセージのイラスト


 実は、筋膜は筋肉を包み込むだけでなく、それ以外にも血管・神経・骨・脂肪・靱帯・内臓など体の中のあらゆる組織を覆っていることから「第二の骨格」とも呼ばれています。イメージとしては、筋膜という名の全身を覆うボディスーツを着ている感じです。


首こり(首コリ) コリとは筋膜のよじれ・ゆがみ・癒着が原因!?

 筋膜はあらゆる組織を包み込んで仕切りを作ったり、結び付けたりする働きもあります。筋膜が正常に作用することで筋肉を円滑に動かすことができます。

 

 筋膜には筋肉を円滑に動きやすくするための潤滑油のような役割もしているので、筋肉を包む筋膜によじれや癒着が発生してしまうと筋肉の動きも悪くなってしまいます。イメージとしては、ヨレヨレしわしわのカーテンのような感じです。筋膜がヨレていて、ピシッと筋肉に張り付いていない状態です。

 

カーテンのイラスト
■カーテンのイメージ

 

 筋膜の悪い状態が続いているのが肩コリや首コリのように昔から「コリ」と呼んできたものの正体なのではないか、というのが「コリ=筋膜のよじれ・ゆがみ・癒着」説です。以前は「コリ=筋肉の凝り固まった状態」というのが通説でしたが、筋膜のトラブルがコリの主な原因ではないかと言われてきています。


首こり(首コリ) アナトミー・トレインのルール

 『アナトミー・トレイン  第3版』によれば、アナトミー・トレイン(筋筋膜経線)には4つのルールがあります。(やや専門的なので読み飛ばしても構いませんが、、、)それら4つのルールを以下にご紹介します。

・ルール① 路線は途切れることなく一定の方向に進む
・ルール② 路線は骨の「駅」,筋付着部で進路を変える
・ルール③ 路線は「スイッチ」時には「ターンテーブル(転車台)」に入り分岐する
・ルール④ 「急行列車」と「普通列車」
 

 要するに、筋膜のネットワークを電車の路線図に見立てているわけですが、ルール①は、路線は途中で断絶することなくつながっている、という当然のことを言っています。それでも、従来の解剖学では筋肉をそれぞれ単独で扱い、全体のつながりとして見ることが少なかったので、画期的な筋肉の捉え方なのです。

 ルール②は、筋付着部=「駅 station」であり、進行方向を変えることができる、です。筋肉はたいてい骨に付着するので骨関節で進路を変えることになります。筋付着部=「駅」はとても大切なポイントです。

 ルール③は、筋膜の路線は、進行方向を変更する時には「スイッチ(switch;ポイント,転轍器)」(分岐器とも呼ばれる)や「ターンテーブル(転車台)」に入ってから分岐し、進路変更します。

 ルール④は、多関節筋を「急行列車 express」と呼び、単関節筋を「普通列車 local」と呼びます。浅層に多い“多関節筋”と深層に多い“単関節筋”という関係になります。

 

 単関節筋とは、筋の起始と停止が関節を1つまたぐ筋肉をいいます。多関節筋(おもに二関節筋)とは、筋の起始と停止が関節を複数(おもに2つ)またぐ筋肉をいいます。

 インナーマッスル(内側の筋肉)という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、体の奥深くにある筋肉の総称です。インナーマッスルの別名として「ローカル筋」「深層筋」「姿勢保持筋」などとも呼ばれます。それに対して、アウターマッスル(外側の筋肉)の別名は「表層筋」と呼ばれます。

 前述したように、インナーマッスルは体の奥深くにあるので「深層筋」と呼ばれ、姿勢をキープするのに関わっているので「姿勢保持筋」とも呼ばれます。普段から姿勢が悪いと言われていたり、自覚がある人はぜひインナーマッスルを鍛えてあげると体幹もしっかり安定し、美しい姿勢をキープすることができます。
 

首こり(首コリ) 筋膜を意識してコリ解消!

 筋肉はもちろん筋膜のことも意識してあげると日常生活の中で肩こり・首こりや腰痛などのセルフケアを行う時にとても役立ちます。筋膜を意識するかどうかでセルフケアの効き目も全然違ってくるはずです。

 

 ストレッチ体操筋膜リリースを自分で行う際にはぜひ活用していただきたいです。超効率的に楽になれます。



参考文献

 

 

・『アナトミー・トレイン  第3版:徒手運動療法のための筋筋膜経線』

・『自分でできる! 筋膜リリースパーフェクトガイド 筋膜博士が教える決定版』 竹井仁

・『「さする&伸ばす」で痛みを解消! 筋膜ストレッチ』 小井手智啓

・『1日1分 筋膜リリース -痛みとこりがラクになる』 滝澤幸一