五十肩とは
五十代を中心に発症するから「五十肩」と呼び、四十代で発症したら「四十肩」と呼びます。
「四十肩」「五十肩」という言い方は俗称であって、正式には「肩関節周囲炎」という医学用語があります。
また「特発性凍結肩」という言い方もありますが、「五十肩」を英語では Frozen shoulder
と呼ぶことに由来します。それでも一般的には「五十肩」の方が広く親しまれています。
五十肩の定義は、肩の痛み・運動制限・原因不明の3つの条件を満たすものをいいます。
肩腱板断裂(または損傷)・肩峰下滑液包炎や石灰沈着性腱板炎などのように原因がわかるものは、肩の痛み・運動制限があっても「五十肩」とは呼びません。
あくまでも原因不明の肩痛で運動障害のあるものを「五十肩」と呼んでいます。
五十肩の由来
江戸時代に刊行された国語辞書に『俚言集覧』という書物があります。成立年不詳ですが、19世紀前期の成立とされています。その中に「五十腕」という項目があり、次のように解説されています。
●『俚言集覧』中巻「五十腕」(国立国会図書館蔵)
【五十腕】
凡(およそ)人 五十歳ばかりの時、手腕骨節の痛む事あり。程過(すぎ)れば藥せずして愈(いゆ)るものなり。俗〔に〕これを五十腕とも五十肩ともいふ。又長命病といふ。
以上の記述からも、江戸時代の書物の中にすでに「五十腕」「五十肩」「長命病」という言い方があったことがわかります。時間がたてば特に治療しなくても治癒するとも言っていますね。
あとは、江戸時代なので五十歳でも「長命病」と呼ばれていたのには“時代”を感じます。
五十肩と思ったら違う肩の疾患ということも
けっこう多いのが「五十肩」と思って何も治療せずに放置しておいたら、実際には五十肩ではなくて肩腱板断裂や頸椎症、石灰沈着性腱板炎だったというような症例がありますので、必ず先に医療機関を受診することを強くおススメします。
五十肩の原因
前述したように原因不明のものを「五十肩」と呼んでいますが、加齢に伴って肩関節の「腱板」や「関節包」にトラブルが起きて発症していると考えられます。
五十肩の症状
「五十肩」の痛みは、初期症状は鈍い痛みや違和感だったりしますが、次第に鋭い痛みに変わっていきます。最初は、動かした時だけ痛んだのが、動かさなくても痛い状態になります。
肩・腕が痛みで思うように上がらず、衣服の着脱や電車のつり革をつかむ、洗濯物を干す、エプロンの紐を結ぶなど日常生活の動作に支障をきたします。
「夜間痛」と言って、横になって寝ている状態でも肩が痛いのはとてもツライですし、安眠もできなくなります。仰向けになって寝る姿勢が重力によって肩を押し下げる格好になるので痛みが増悪します。バスタオルなどを肩関節の下に入れるなどして支えにして痛みを軽減させます。または痛みのある方を上にして横向きに寝ます。
五十肩の3つの時期
急性期
発症から2週間ほどになります。強い痛みが起き、可動域の制限も狭まり、今まで当たり前に行えていた様々な日常生活の動作ができなくなります。安眠できなくなるケースもあり、心身ともに衰弱してしまいますので、痛みの緩和のために消炎鎮痛薬を活用しましょう。
慢性期
おおまかな目安ですが、約6ヵ月間になります。急性期と比べれば、痛みも軽くなります。縮こまってしまった肩まわりの筋肉や肩関節をゆるめて可動域を広げるために、温熱療法や運動療法を行います。
回復期
徐々に痛みも軽くなり、肩も少しずつ動かしやすくなります。今まで肩の痛みのせいで使えていなかった肩まわりの筋肉は痩せ衰えています。回復期は、肩の痛みもやわらぎ、可動域も広くなるので積極的に肩のストレッチ体操や運動療法を行うチャンスです。
五十肩の鍼灸治療
基本的には、肩まわりの固まった筋肉をゆるめることで肩の痛みを軽減し、肩の可動域を広げることを目指します。急性期なのか、慢性期や回復期なのかによって治療部位も変えていきます。
急性期は肩関節やその周りの炎症や痛みが激しいので、患部よりもその周囲の筋肉を緩和させます。アナトミートレインという身体の捉え方になります。
慢性期になって患部である肩関節の炎症が落ち着いてきたら患部を積極的に治療します。もちろん患部である肩関節だけでなく肩甲骨・首・上腕などの関連する筋肉もゆるめるように鍼灸治療を行います。
回復期は血行不良のまま放置してしまうと回復するものも回復しなくなってしまいます。肩関節の血行改善が大切なポイントになります。運動療法と並行して鍼灸治療をしていただき、早期回復を目指します。
参考文献
・『俚言集覧』中巻(国立国会図書館蔵)