頭痛(片頭痛と緊張型頭痛)の鍼灸治療



はじめに

 

 頭痛の治療は、まず一次性頭痛二次性頭痛を見きわめる必要があります。なぜなら頭痛の中には命にかかわる頭痛があるからです。とは言っても、頭痛全体の90%以上が一次性頭痛(機能性頭痛)になります。

 一次性頭痛は、機能性頭痛とも呼ばれますが、その代表的なものとしては、片頭痛・緊張型頭痛・群発頭痛があります。長期間に渡って何度も繰り返すので慢性頭痛症とも呼ばれます。一次性頭痛は、命にかかわることがないとは言え、QOL(生活の質)を低下させるので、できるだけ頻度や症状を軽減させたり、予防することが望ましいですね。

 

 二次性頭痛は、症候性頭痛とも呼ばれますが、何かしらの病気があって、その症状のひとつとして頭痛を発症するタイプの頭痛になります。命にかかわる二次性頭痛(症候性頭痛)には、くも膜下出血・脳腫瘍・髄膜炎などがあります。
 鍼灸治療の適応症となる頭痛は、一次性頭痛(機能性頭痛)です。頭痛の場合は、命にかかわる頭痛もありますので、できれば医療機関を受診して二次性頭痛ではないことを確認した上で、鍼灸治療を始めることをおススメします。

 

 


片頭痛の鍼灸治療


片頭痛(偏頭痛)

片頭痛(偏頭痛)の特徴

 

 脈にあわせて「ズキンズキン」と頭の片側のこめかみ周辺で痛むのが典型的な片頭痛の症状になります。一方で「ズキンズキン」が無い非拍動性タイプの片頭痛もあります。また前兆のある片頭痛もあれば、前兆の無い片頭痛もあります。

 

片頭痛」と一言で言っても意外にいろんなパターンがあります。ちなみに“へんずつう”には「片頭痛」と「偏頭痛」の両方がありますが、西洋医学の方では「片頭痛」が多く使われています。東洋医学の医学古典ではもっぱら「偏頭痛」が使われています。どちらでもよいのですが、ここでは「片頭痛」の方を優先的にして書いています。

 

 片頭痛の痛みは、数時間で済むものから数日間続くものもあります。ひどい時には吐き気がしたり、光や音、においに敏感になります。片頭痛の病名は、頭の片側に症状が出やすい所からきていますが、両側で痛むタイプもあります。片頭痛もちの人には肩こり症状も併発しているケースが多いようです。

 

 

片頭痛の男女差

 

 20~40歳代の女性に多いとされています。
 Eisai(エーザイ)のHPでは「日本における片頭痛の疫学調査」について紹介されています。国際頭痛分類(ICHD-II)の診断に基づいて実施された大規模調査の結果によれば、男女差がかなりあることが分かります。片頭痛の有病率は全体では8.4%ですが、男性の3.6%にたいして女性が12.9%となっています。女性のほうが男性よりも約3.6倍も有病率が高いのですね。
 

 

片頭痛の原因

 

 片頭痛の原因やメカニズムはまだ完全に解明されているわけではないですが、脳内の神経伝達物質であるセロトニンが深く関係していると言われています。今のところ一番有力なのが「三叉神経血管説」ですが、他にも「血管説」があります。
 「頭痛ダイアリー」などからも過度のストレス睡眠不足、女性の生理気温湿気チーズ・チョコレート・ピーナッツ・ワイン等の飲食物の摂取など様々な要因が重なることで頭痛が誘発されることが分かっています。

 


片頭痛の対処法

 

 「頭痛ダイアリー」を活用することで自分の片頭痛がどのような時に症状が出やすいのかを客観的に把握することができます。その時にとても役立つのが「頭痛ダイアリー」になります。チーズワインピーナッツなどの摂取によって片頭痛を誘発してしまう体質の人もいるので要注意です。

 

 頭痛ダイアリーは、片頭痛・緊張型頭痛・群発頭痛などの記録のために使われています。生理の有無、服薬、頭痛の程度などを記録します。頭痛ダイアリーは日本頭痛学会のHPでも配布しています。他にもスマホやタブレットで利用できる「片頭痛ダイアリー」アプリもとても役立ちます。スマホであれば外出中でも持ち歩くので常に片頭痛の記録をすることができます。

 

 片頭痛の患者さんに比較的多いのが平日は平気なのに休日になると片頭痛の症状が出やすいことです。仕事のある平日は緊張感がありますが、休日は仕事から解放されて一気にリラックス状態になります。それによって血管も拡張し、炎症物質が放出され、片頭痛を引き起こすともいわれています。平日は睡眠不足で、休日に寝過ぎることでも片頭痛の症状が引き起こされることがあります。片頭痛と長く付き合っている患者さんは、経験的にそのことが分かっていて、休日でもリラックスし過ぎないように予定を入れたりする人もいます。

 


片頭痛の鍼灸治療

 

 片頭痛の原因やメカニズムはまだ完全に解明されているわけではないですが、特に頭部の血管拡張炎症が関わっていることに着目すれば、血管の拡張による三叉神経への刺激を抑えることができれば少しずつ片頭痛の症状が改善するであろうことが推測できます。

 

 ただし、急性期の炎症を起こしている患部に直接的に針や灸をしてしまうことはできれば避けて必要最小限にしたいのです。なぜなら鍼灸した部位は血流が改善することが多いので片頭痛の患部に鍼灸してしまうと症状が悪化してしまうことがあるからです。

 

 では鍼灸医学的にはどのように片頭痛を捉えて鍼灸治療するのかと言うと、ポイントは東洋医学用語でいう「上実下虚」にあります。片頭痛はまさに「上実下虚」なのです。本質的なことを言えば「下虚上実」です。

 

 「下虚上実」とは文字通り「半身が弱で足が冷えることで半身が過度に充」している身体状況になります。「下虚」のせいで「上実」になるのです。“冷えのぼせ”もほぼ同じで、足先が冷えることで頭がのぼせる「」の状態になりす。昔から健康に良いと言われる「」とは真逆の状態ですね。過度に頭に血が上る病態なのですから頭部の血を四肢末端に戻してあげることを考えます。

 

 実際の片頭痛の鍼灸治療でも患部である頭部への刺激は最低限に抑えて手先・足先や下半身を中心に血流を改善させることを心がけています。片頭痛は痛くて辛い頭部に注目しがちですが、下半身の状態もチェックすべきだと思います。

 

 セルフチェックしていただき、典型的な「上実下虚」に当てはまる場合は、鍼灸治療によって効果が出やすい片頭痛のタイプだと言えます。一度鍼灸治療を試してみる価値はあると思います。

 

 理想を言えば、片頭痛は症状が出る前に予防してしまうことが大切です。いったん発作的な症状が出てしまうと薬を飲んでも効き目が悪いことがあると思います。ふだんの飲食物、適度な睡眠やストレス発散などを上手にできれば症状を軽減することができます。自分でできる範囲で実践してみてくださいね。

 

 

参考文献

 

『頭痛 ― 正しい知識と治し方 改訂第2版』 寺本純

・『これで治す最先端の頭痛治療』(日本頭痛学会)
・『頭痛治癒マニュアル』(山王 直子)

 

 


片頭痛の古典的鍼灸治療


 『霊枢』に記載される片頭痛の治療法

 

 伝統的な鍼灸医学ではどのように片頭痛の治療を行っていたのでしょうか。鍼灸医学古典を紐解くことでその治療内容を探りたいと思います。どのように片頭痛の病態を捉え、どのように治療していたかが分かると思います。漢代の鍼灸医学書である『霊枢』厥病篇に片頭痛の症状を思わせる次のような記述があります。

 


頭半寒痛.先取手少陽陽明.後取足少陽陽明

 「頭半痛」は、頭の半分が冷えて痛むという症状になります。現代医学でいう片頭痛の病態を考えると「頭半痛」ならバッチリと合致しますが、「頭半痛」は似て非なるものかもしれません。

 

 「頭半痛」の治療法も指示していて先に手少陽・陽明(の経脉上の経穴)を取りて後に足少陽・陽明(の経脉上の経穴)を取る 〔先取手少陽陽明.後取足少陽陽明〕と言っています。

 

 治療の手順として先に手少陽・陽明経脉のライン上にあるツボ(経穴)を使って針灸を行い、その後に足少陽・陽明経脉のライン上にあるツボを使って針灸治療を行うように指示しています。治療のポイントは、先に手、後に足の経脈上の反応の強く出ているツボ(経穴)を使って治療することのようです。

 


厥頭痛.頭痛甚.耳前後脉湧有熱.寫出其血.後取足少陽.

 『霊枢』厥病篇には6つの「厥頭痛」が紹介されていますが、そのうちの一つになります。「厥頭痛、頭痛甚(はなは)だしく、耳の前後は脉湧きて熱有り〔厥頭痛.頭痛甚.耳前後脉湧有熱〕」として、耳の周辺が脈打ち、熱感があると言っています。顳顬(こめかみ)ではなく耳の前後が脈打つ(耳前後脉湧)というので“後頭神経痛”かもしれませんが、「有熱(熱をもつ)」とも言っているので片頭痛の症状と捉えることもできるのではないかと感じます。片頭痛と言えば、こめかみがズキンズキンと痛むというイメージがありますが、耳の後ろが痛くなるケースもあります。

 

 治療法としては「寫してその血を出し、後に足少陽(経脉のツボ)を取る〔寫出其血.後取足少陽〕」と言い、瀉血(しゃけつ)をして血を取ることを指示しています。瀉血(しゃけつ)は、古代中国医学のみならず中世・近世・近代のヨーロッパやアメリカでも広く行われていた治療法になります。現代の日本の鍼灸師が瀉血療法を行うのは色々な問題に直面することになるのですが、片頭痛の治療法としては、頭部で充血過多の血液を瀉血で排出するのは非常に効果的だったであろうと思います。

 

 治療のポイントは、先に患部である頭に偏在している血液を瀉出し(瀉法)、後に足を(温めるなどして)針したり灸したりする(補法)、と古典では言っていることです。その病態は「下虚上実」だと言えます。「下虚上実」は文字通りに、下(半身)がひどく虚弱になり冷えたのが原因で、上(半身)が過度に充実している状態です。強調したいのは、「下虚」が先行して「上実」を引き起こしていることです。漢方薬では「呉茱萸湯(ごしゅゆとう)」が有効なことが多いでしょう。

 

 「下虚上実」を改善するためには「上実」を何とかするか、「下虚」を何とかするか、それによってアプローチが違ってきます。鍼灸医学の古典である『霊枢』厥病篇では、先に「上実」の“実”を取り除き、その後に「下虚」を温めるなどして“虚”を改善させるように治療の手順を指示しています。

 

 どうもこの手順で治療することは非常に理にかなっているようで、通常では片頭痛の発作的症状が出てしまってから治療効果を出すのはなかなか難しいにも関わらず、症状が改善するケースもあるのです。やはり理想は症状が出る前に予防してしまうことが一番ですが。

 

 

 

 『鍼灸甲乙経』に記載される片頭痛に有効な経穴

 

 『鍼灸甲乙経』に記載される片頭痛に有効な経穴のイラスト

 

 経穴学書としても有用な『鍼灸甲乙経』は中国・西晋時代に皇甫謐によって著されたとされる医学古典になります。その『鍼灸甲乙経』に片頭痛(偏頭痛)に効果的な経穴(ツボ)が紹介されています。

 

 

懸釐(けんり)穴 ―― 『鍼灸甲乙経』卷之七第一上熱病偏頭痛引目外眥懸釐主之
 「熱病」「偏頭痛」「目外眥(めじり)に引く」などの症状に対して懸釐(けんり)という名の経穴(ツボ)が有効だと記しています。


頷厭(がんえん)穴 ―― 『鍼灸甲乙経』卷之十二第四目眩無所見偏頭痛引外眥而急頷厭主之
 「めまいして見る所なし〔目眩無所見〕」「偏頭痛」「外眥(めじり)引きて急(こわば)る」などの症状に対して頷厭(がんえん)という名の経穴(ツボ)が有効だと記しています。

 

 懸釐頷厭の両穴とも、こめかみ周辺のツボであり、まさにズキンズキンと痛む患部になります。前述の『霊枢』厥病篇「厥頭痛」の記述と併せて考えれば、瀉法(瀉血)を示唆しているのだと思います。

 

古代針灸医学では熱病で発熱している時などはよく瀉法(瀉血)をしていました。とても即効性があったと思います。それでも現代の日本の鍼灸師が瀉血を行うのは様々な問題があり、実践しにくいのが現状です。

 

 前述したように『霊枢』厥病篇に「厥頭痛 …… 寫してその血を出し、後に足少陽(経脉のツボ)を取る寫出其血.後取足少陽〕」という記述があり、治療は、先に瀉血し、後に足少陽(経脉のツボ)を使って治療する、と指示しています。

 

 「寫出其血」の瀉血は血を出す治療法ですが、「後取足少陽」「足少陽」はまさに『鍼灸甲乙経』が記載する片頭痛に有効なツボである懸釐(けんり)穴と頷厭(がんえん)穴も含まれていただろうと思います。なぜなら懸釐穴と頷厭穴の両方とも「足少陽(胆経)」に所属しているからです。足少陽胆経の気の流れは、下図のとおり顔の側面から下って足の指先までのラインを流れている、とされています。

 

足少陽胆経のツボ(経穴)と気の流れのイラスト

■足少陽胆経のツボ(経穴)と気の流れ

 


 鍼灸治療の大原則:補法と瀉法

盛則寫之.虚則補之.(『霊枢』經脉篇)

 鍼灸治療の大原則「盛んなればこれを寫し、虚すればこれを補す」というのがあります。文字通り「瀉法(寫法)」と「補法」でとてもシンプルです。

 

 補法の「補」は、素直に読めば“おぎなう”です。気を補うのですが、パターンとしては、体の外から補うのか体内で補うのかにわかれます。気功では、外から気を補う方法を考えますし、食養生の場合も、飲食物から身体を滋養することは外から栄養を取り入れることになります。一方で、鍼灸医学の場合は、あまり外から気を補うという考え方はせず、もっぱら自分の体内で気を巡らせる・補う=免疫力・自然治癒力を向上させるというのが常のようです。

 

 瀉法の「瀉」は、白川静『字統』によれば“取り除く・移す”などの意味があります。余分なものを体内から取り除く、体内から体外へ移すというイメージです。例えば、体に栄養を送る血液でさえも滞ってしまえば「瘀血」と呼び、無用の長物とみなします。現代医学で言う「ドロドロ血液」や「血栓」のようなものです。それは瀉法(瀉血)で取り除くべき対象になります。
 瀉法にはいくつかの方法があり、前述した「瀉血」のように血を出すやり方もあれば、血を出すことなく針や灸で行う方法もあります。瀉血は瀉法の一種にすぎないのです。

 

 鍼灸医学はバランスを整えることを重視します。なので「有余は減らし、不足は補う」のが大原則としてあります。「有余を減らす」のが瀉法、「不足を補う」のが補法です。

 


 片頭痛と下虚上実

 

 典型的な片頭痛の病態は「下虚上実」です。「下虚」のせいで「上実」になるのです。「下虚」は足の冷えをはじめとした下半身の虚弱な状態であり、「上実」は今回の片頭痛では頭のズキンズキンとした炎症性の痛みになります。『霊枢』衞氣篇「下虚則厥.下盛則熱.上虚則眩.上盛則熱痛」とあります。「下虚はすなわち(気血の循環障害による足の冷え)」になり、「上盛はすなわち熱痛」です。「上盛」=「上実」です。つまり、典型的な片頭痛 = 下虚上実 ⇒ 足・頭痛 となります。

 

 繰り返しになりますが、「下虚」のせいで「上実」になるので、「下虚(足の冷え)」をなんとか改善できれば「上実(片頭痛)」も軽減できることになります。先に「下虚」を補法で治療するか「上実」を先に瀉法で治療するかは悩ましい所であり、鍼灸師の治療方針によっても分かれる所だと思います。

 


 『鍼灸聚英』に記載される片頭痛に有効な経穴


懸顱頷厭之中.偏頭痛止.(『鍼灸聚英』巻四上・百證賦)

 懸顱(けんろ)頷厭(がんえん)の中、片頭痛止む。


 「」字をどう解釈するかが課題としてありますが、動詞として解釈すれば「」は“当(あ)たる”の意味になりますし、名詞として解釈すれば“内側・まんなか・中間”などの意味になります。上図のように懸顱(けんろ)頷厭(がんえん)の中(中間?内側?)を治療点とするのか、懸顱・頷厭の二つのツボに針を当てる(刺す)治療をするということなのか。ちょうど片頭痛でズキンズキンする箇所です。いずれにしても手で探って反応を見て治療は「上実」にたいして瀉法を行います。

 


申脈能除寒與熱頭風偏正及心驚.(『鍼灸聚英』巻四上・攔江賦)

 申脈(しんみゃく)のツボは、よく寒と熱、頭風偏正および心驚を除く。

 

『鍼灸聚英』巻四上に記載される片頭痛に効果的な経穴「申脈」

 

 申脈は足にある経穴です(上図参照)。反応がでる場合はかなり強い圧痛として感じます。患部から遠く離れたツボを使い、治療は「下虚」にたいして補法をします。足の冷えが改善して温まるというような具体的な反応があると分かりやすいですね。

 

 


液門【滎水】手臂痛寒厥.妄言驚悸昏.偏頭疼目眩.當以液門論.

 

 液門(えきもん)は、手臂痛みて寒厥、妄言、驚悸して昏(くら)し、偏頭疼、目眩(めまい)はまさに液門を以て論ずるなり。

 

『鍼灸聚英』に記載される片頭痛に効果的な経穴「液門」

 

 液門は手にある経穴です(上図参照)。反応がでる場合はかなり強い圧痛として感じます。治療は「下虚」にたいして補法を行います。

 『鍼灸聚英』の中では患部である頭部のツボと遠隔部である手足のツボを使うように言っています。その都度、身体の状態を把握しながらツボの反応も診て、どう治療するかを決定します。どの病気もそうですが、特に片頭痛は発作が起こってしまってから後手後手に対処するよりも予防に力を入れて未然に防ぐ方が心身ともにとても楽です。

 

 前述した通り片頭痛は必ず「上実」があるのですが、「下虚」の程度次第では優先的に「上実」よりも「下虚」を改善させた方が効率的に症状を緩和することができます。時には「下虚」よりも「上実」の頭部のツボを直接治療した方がよいこともあるでしょう。その判断が意外に難しいかもしれません。

 

 結論としては、時には薬を上手に利用しつつ、生活スタイル・食養生・セルフケアなどを実践しながら片頭痛を軽減したり、予防したりすることは可能だと感じます。鍼灸も片頭痛の改善の一助になって役立てればと思っております。

 

 

 

参考文献

・『素問・霊枢』 日本経絡学会

『黄帝鍼灸甲乙経(新校本)』 中国医薬科技出版社/黄龍祥〈校注〉

・『鍼灸聚英』 上海科学技術出版社

 


緊張型頭痛の鍼灸治療


緊張型頭痛とは

 

 緊張型頭痛は、頭や首まわりの筋肉の過緊張や過剰な収縮によって引き起こされてしまいます。以前は、筋収縮性頭痛とも呼ばれていました。日常的に長時間のデスクワークをする人や育児中で抱っこやおんぶをよくするママさんパパさんなどは首痛や肩こりを起こしやすいですし、あわせて緊張型頭痛も発症しやすい、と言えます。

 

 緊張型頭痛は、慢性頭痛の中で最も多いと言われています。ストレスによる精神的な緊張や頭部・頚部の筋肉の過緊張などが原因となって緊張型頭痛が引き起こされると考えられています。



緊張型頭痛のセルフケア法

 

① 生活スタイルちょい見直し
 生活スタイルというと大げさかもしれません。なかなか生活スタイルを変えられないかもしれないので、生活の中での体の使い方の意識を少しだけ変えてもらえればカラダにお得ですよ、という提案です。

 


PCモニターを視線と水平に

 

 

良い姿勢と悪い姿勢のイラスト

 

 

 パソコン作業の時に視線がPCモニターを見下ろす姿勢はNGです。視線は見下ろさずに水平になるようにします。例えば、頭はボーリングの球と同じくらいの重さだと表現されるようにけっこうな重さです。頭は首や肩などに支えられていますが、頭が前のめりに傾くと首・肩への負担が激増してしまいます。野球のバットを片手で持つ時にまっすぐに持つぶんには楽ですが、バットを斜めにするほど片手で持つには苦しくなるのと同じです。猫背の前傾姿勢は、首痛・肩こりを増悪させる最悪の姿勢だと言えます。
 PCモニターでもスマホでも目と画面の位置を水平にするだけで姿勢が良くなり、首・肩にかかる負担を軽減することができます。ホントにちょっとした工夫だけですので、ぜひ意識して実践してみてください。

 


頭頂を意識してあごを引かない

 

 「胸を張ってあごを引く」のが正しい姿勢のコツとして書かれることがよくありますが、個人的には少し問題点があるように感じています。なぜなら「上下歯列接触癖(TCH)」の観点から、あごを引きすぎてしまうのは“問題あり”だからです。歯科学の観点からすれば、上下の歯は食事する時以外は接触しない方がよいのです。

●ポイント① あごの位置
 あごを下げすぎると上と下の歯が接触してしまう位置があります。そうなるとあごを下げすぎということになります。
●ポイント② 耳の位置
 体を横から見て「耳」と「肩」の位置が垂直のライン上になるように意識します。
●ポイント③ 百会を意識する
 百会(頭頂部のツボ)を意識します。眉間からの正中線と両耳を結ぶ線の交わる一点が「百会」です。頭頂部の「百会」にヒモがついていて上に引っ張るイメージです。人形の頭頂部にストラップ(ひも)がついていて、そのストラップを上に引っ張る感じですね。

頭頂部のツボ(経穴)である百会のイラスト


② ウォーキング
 運動する、というと“わざわざ感”が強くなってしまい、いつまでも「重い腰を上げる」ことができなくなってしまうので、今回はウォーキングに限定しました。ウォーキングと言っても、仕事の通勤の際にいつもより少しだけ歩く距離を増やしたり、仕事ではなくてもいつも自転車で行くところを歩いていくようにするなど、ちょこっとだけ変えてもらうことで継続的に続けやすい形で実践していただければ、と思います。

③ 市販薬を服用する
 本当につらい時は、市販の鎮痛薬を服用するのも選択肢のひとつです。薬に依存したくないという想いを抱く方が多いのも強く感じます。先に生活スタイルの見直しや運動などをしてもなお頭痛が続く場合は、長引く頭痛のせいで生活に支障が出てしまうことを考えれば、依存しない程度で市販薬を活用するのは仕方ないのではないでしょうか。


緊張型頭痛のセルフケアとあわせて鍼灸治療を!

 

 軽度の緊張型頭痛ではちょっとの生活スタイルの見直しや運動などでかなり改善できてしまうケースが多くあると思います。セルフケア法だけでは改善しない場合は鍼灸治療もあわせてみてはいかがでしょうか。鍼灸治療することで頑固な首こり・肩こりをゆるめ、それをキッカケとして緊張型頭痛の改善につながれば、と思います。

 

 

 

参考文献

・『頭痛 ― 正しい知識と治し方 改訂第2版』寺本純

・『これで治す最先端の頭痛治療』(日本頭痛学会)
・『頭痛治癒マニュアル』(山王 直子)

 


薬物乱用頭痛(MOH)の鍼灸治療


 

薬物乱用頭痛に要注意!

 片頭痛や緊張型頭痛などで頭が痛いからといって毎日のように依存的に頭痛薬を飲んでいると、脳が過敏になり、かえって頭痛を感じやすくなったり、慢性化したりするケースを「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)(MOH:Medication Overuse Headache)」といいます。
 以前は単に「薬物乱用頭痛」が採用されていましたが、「薬物乱用」のワードが非合法の薬物の乱用を連想させてしまうので現在では「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」に変更になりました。

 市販の鎮痛薬が簡単に手に入ることもあって、素人判断で過剰に服用することで、かえって頭痛を感じやすくなることがあります。頭痛が出る前から予防的に服用してしまったりせずに、医師の指導の下、鎮痛剤を処方してもらうのがベストです。適切な頭痛薬の種類や飲む頻度などはプロである医師の診断を受けた方が理想的です。

日本頭痛学会HPに掲載される『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』によれば、薬物乱用頭痛の診断基準は以下の通りです。

A.以前から頭痛疾患をもつ患者において,頭痛は1ヵ月に15日以上存在する
B.1種類以上の急性期または対症的頭痛治療薬を3ヵ月を超えて定期的に乱用している
鎮痛薬
C.ほかに最適なICHD-3の診断がない

*薬剤の使用過多による頭痛で最も多いとされているのは、複合鎮痛薬による乱用頭痛です。複合鎮痛薬は市販の鎮痛薬が代表例です。気軽に手に入りやすいこともあり、鎮痛薬の飲みすぎには注意しましょう。頭痛ダイアリーを使用して服薬日数を確認するようにしましょう。


薬物乱用を止めるのが治療の基本

 「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」の治療の基本は原因となっている鎮痛薬の使用を止めることです。それも頭痛専門医の指導の下でじょうずに止めるようにしてください。比較的軽症の場合は、薬の乱用を止めることで頭痛が治る人が7割程いますが、再発する人が3割程いるといわれています。重症の場合は、入院して医師の治療が必要なケースもあります。


薬物乱用頭痛の鍼灸治療

「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」になる患者さんはもともと片頭痛もしくは緊張型頭痛があって、その痛みを緩和するために「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」になってしまうケースが多いようです。
 前述したように、薬の服用を止めることで「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」の患者さんの7割程が治りますが、そのうちの3割程が再発してしまいます。もともとあった片頭痛もしくは緊張型頭痛の根本治療をする必要があります。

 

 鍼灸治療して、首・肩・背中まわりの筋肉の緊張をゆるめることで片頭痛や緊張型頭痛の根治を目指します。セルフケア法として頭痛体操を実践していただくのも効果的だと思います。

 

 

 

参考文献

・『これで治す最先端の頭痛治療』(日本頭痛学会)
・『頭痛治癒マニュアル』(山王 直子)
・『頭痛薬をやめて頭痛を治そう!』(陣内 敬文)

 

 


頭痛と顎関節症の関係性


 

顎関節症とは

 顎関節症の症状といえば、「口を大きく開くことができない(開口障害)」「口を開ける時に痛む(顎関節痛・咀嚼筋痛)」「顎関節から音がする(顎関節雑音)」などの症状があります。

 

 口を大きく開けることができないことで食事の時に硬いものを避けたり、流動食に近いものしか食べられなくなるなど支障が出ることもあります。

 


顎関節症の原因は

 顎関節症の原因は、顎関節そのものや咀嚼筋(咬筋・側頭筋・外側翼突筋・内側翼突筋など)のトラブルなどで発症します。要するに、顎関節を構成している骨・筋肉・靱帯のバランスが崩れている状態になります。咀嚼筋の緊張が顎関節のアンバランスを招き、アゴの機能を低下させることもあるのです。

 

 余談ですが、咀嚼筋の緊張のせいでエラが目立つなど美容関係にも影響します。実は、美容鍼ということで小顔のために針するのが咀嚼筋・表情筋などになります。


顎関節に負担のかかる生活習慣

 無意識で行っている生活習慣が顎関節症の原因のひとつになっていることも考えられます。例えば、日常的に硬いものを食べる、食事の時にいつも同じ側ばかりで噛む、よく頬杖をつく、夜中寝ている時に歯ぎしり・食いしばりをしている、などなど。

 

 食事の時にいつも同じ側で噛む人は意外に多いようです。小さい頃から無意識に頬杖をつく習慣を持っている人もいるようです。同じ側で噛むクセや頬杖をつくクセなどは普段から意識して心がけることで、その癖をなおすこともできます。

 夜中の歯ぎしりなどは自分では気づけないものです。朝起きた時になんだか顎が疲れている、歯がジャリっていうなどの症状がでることも。家族に指摘されて気づいたり、歯医者さんで歯ぎしりを指摘されて気づくこともあります。歯を見ると分かるのですね。だいたいマウスピースを勧められます。


精神的ストレスで日中の食いしばりになることも

 緊張しやすい人が無意識に日中の食いしばりをしていることがあります。実は、顎関節症になる人の中には、歯ぎしり・食いしばりの癖がある人が多いようです。歯ぎしり・食いしばりすることでストレス発散しているという説もあります。


顎関節症で頭痛になることも

 それにしても噛み合わせが悪くなる原因や咀嚼筋のトラブルはなぜ起きてしまうのでしょうか?日常的な生活習慣や意識の持ち方などのセルフケアでじゅうぶんに改善できることをお伝えしたいです。

 『噛み合わせが人生を変える』によれば、顎関節症から肩こり・腰痛・不眠症・うつ病などが引き起こされることもあるとしています。実際に、虫歯があって噛み合わせの悪さが引き金となり、肩こり・背筋痛・腰痛・不眠・生理不順の症状が出てしまった症例なども紹介しています。その後、口腔ケアマウスピースをして噛み合わせも修正させたところ、肩こり・背筋痛・腰痛が先に改善していき、さらに不眠・生理不順も解消していきました。

 


あなどれない顎関節症

 噛み合わせや歯の矯正治療などで顔のゆがみを改善させるのが理想ですが、顎関節症が重症化してしまい、食べるのも困難になるケースもあります。重症化する過程で、肩こり・頭痛・めまい・耳鳴りなどの症状が出たりもします。
 どんな病気もそうですが、軽症のうちは治しやすく、重症化する程治しにくくなります。早めの専門医の受診をおススメします。


上下歯列接触癖(TCH)

 最近では「歯の接触癖」についてTVなどでも取り上げられて話題になっています。歯科学的な正式名称としては「上下歯列接触癖(TCH)」と呼びます。

 「上下歯列接触癖(TCH)」は上歯と下歯がふだんから接触してしまうクセがある状態です。おおまかに言えば、上歯と下歯は食事の時以外は接触しない方がよいということです。


上歯と下歯が接触するとどうなるか?

 TCHによって、日中であれば無自覚に食いしばりをしてしまっていることがあります。上歯と下歯が接触する力が例えほんの少しの力でも咀嚼筋に負担がかかり続けるので、筋肉の過緊張につながります。日中の食いしばりが多いとクセになり、夜間就寝中の歯ぎしり・食いしばりにつながるとも考えられます。

 

歯ぎしり・食いしばりのイラスト

 


TCHの認知行動療法による改善法

「猫背スマホ」をやめる

  

猫背スマホと正しい姿勢のイラスト

 

 スマホやPC画面を見る姿勢をしてみてください。おそらく前傾して首を垂れるような姿勢になってしまう人が多いと思います。まさに「猫背スマホ」です。そのような姿勢だと上歯と下歯が接触してしまいます。上歯と下歯が接触しているのを確認しながら首を持ち上げて良い姿勢に戻していくと途中から上歯と下歯の接触がなくなるはずです。

 繰り返しになりますが、スマホを見る時のうつむき加減の姿勢では上歯と下歯が接触してしまい、知らず知らずのうちに顎の筋肉に力が入ってしまうのです。少しの力でもそれが長時間になると積み重なって大きな負担になります。

 

 「意識」して猫背でスマホするのをやめて、前傾にならない良い姿勢でスマホするように心がけましょう。

 


ポストイット(付箋)で意識付け

 

ポストイット(付箋)のイラスト

 日常的に目に触れる場所(スマホ画面、PC画面、冷蔵庫の扉、洗面台の鏡など)にポストイット(付箋)を貼って何度も「意識」させます。ポストイットには「歯と歯はくっつけない」などの言葉を書いておき、心の中で読むか、口に出して読み上げてもよいでしょう。そうして繰り返し行うことで「意識付け」を強化していきます。

 

 


咬筋や側頭筋のマッサージ

 

咬筋や側頭筋などのイラスト

 

 咬筋(こうきん)側頭筋などの筋肉が凝り固まった状態の場合はやさしくセルフマッサージしてあげましょう。必ず左右差がありますので、セルフマッサージして実際に手に触れた感触をよく覚えておいてください。顎関節のどこが凝り固まっているかを強く「意識」することができ、自覚もできると思います。自覚ができれば、いたわる気持ちにもなります。

 

 

 

参考文献

・『噛み合わせが人生を変える』(日本顎咬合学会)
・『歯のゆがみをとれば95%病気にならない』(村津和正)

・『心と体の不調は「歯」が原因だった!』(丸橋賢)