腰痛&坐骨神経痛の鍼灸



急性腰痛症(ぎっくり腰)の鍼灸治療


腰痛

 

急性腰痛症とは


 腰痛とは腰部の痛み症状の総称であって病名ではありません。急性腰痛症は、一般的には「ぎっくり腰(ギックリ腰)」と呼ばれますが、ドイツ語では「魔女の一撃」と表現されるようです。「魔女の一撃」だなんて本当にトドメを刺される感じですね。


 ぎっくり腰の多くは、数日から数週間で痛みの症状が治まっていきますが、一度で終わらずに期間を置いて何度も繰り返す人もいらっしゃいます。

 

 急性腰痛症と言っても、いろいろな原因が考えられます。

 慢性腰痛症と同じで「骨」関連の腰痛なのか「筋肉」関連の腰痛なのかを見極めるのがとても大切なポイントになります。

 


「骨」関連の急性腰痛症

 

椎骨のイラスト

 

 「骨」関連の急性腰痛症は、腰椎椎間板ヘルニア椎間関節性腰痛症腰椎圧迫骨折などが挙げられます。患部である腰の痛みや違和感だけでなく、臀部(おしり)や下肢に痺れ(しびれ)や痛みを感じることも多くあります。レントゲン、CT、MRIなどで画像検査を行い、診断を確定します。

 

 その他にも以下のような前屈・後屈することで簡易的なセルフチェックをすることができます。

 

 腰椎椎間板ヘルニアは、後屈はあまり問題なく動作できますが、前屈で痛みを誘発しやすいのがひとつの特徴です。逆に、椎間関節性腰痛症は、前屈はあまり問題なく動作できますが、後屈で痛みを誘発しやすいのがひとつの特徴です。

 

 いずれにしても医療機関を受診し、画像検査によって診断することが基本になります。

 

前屈と後屈のイラスト

 

 

「筋肉」関連の急性腰痛症


 筋・筋膜性腰痛症腰椎捻挫などが挙げられます。筋・筋膜性腰痛症は、文字通りで腰部の筋肉や筋膜の炎症によって引き起こされる腰痛になります。

 

 腰椎捻挫は、文字通りでは腰椎の捻挫(ねんざ)ですが、主に交通事故などの外傷によって発症したものをいうことが多いようです。

 


経筋とアナトミートレイン(筋筋膜経線)


 当HP内の慢性腰痛症の鍼灸治療でも述べましたが、筋肉や筋膜は連動してつながっています。この事実は、本質的・根本的なことであり、とても重要なことでもあります。

 

 急性腰痛症の場合、発症から2~3日までの急性期には腰の患部は炎症があって痛みも強く出てしまいます。炎症の強い患部に湿布薬(経皮消炎鎮痛薬)を貼るのは効果的ですが、当院で鍼灸治療する場合には、炎症による痛みの強い患部に対して、それを助長するようなお灸や刺針をすることはできるだけ行いません。

 

 そこで役立つのが、鍼灸医学の「経筋」やコネクションの解剖学といわれる「アナトミートレイン(筋筋膜経線)」などの考え方になります。ポイントは、筋・筋膜のつながりを意識することにあります。

 


急性腰痛症の鍼灸治療

 

 急性腰痛症の中でも「筋肉」関連である筋・筋膜性腰痛症などは鍼灸治療がとても効果的です。

 

 鍼灸医学の経筋や解剖学のアナトミートレインなどの考え方を活用し、筋・筋膜のつながりを意識すれば、腰痛を治すのに「腰」だけを治療するのではなく、腰以外の肩背部臀部下肢などを治療することで腰痛を治療し、症状の軽減を目指します。

 

 以上のような体の捉え方ができれば、自宅でのセルフケアの実践でも役立ちます。腰痛は腰だけの問題ではなく、腰とつながりを持つ肩背・臀部・下肢にも着目して、日常的にストレッチ体操などで筋肉をゆるめてあげれば、予防することも可能です。

 

 

 


参考文献

・『自分でできる! 筋膜リリースパーフェクトガイド 筋膜博士が教える決定版』 竹井仁
・『1日1分 筋膜リリース -痛みとこりがラクになる』 滝澤幸一
・『慢性疲労は首で治せる!』 松井孝嘉

・『枕革命 ひと晩で体が変わる』山田朱織

・『アナトミー・トレイン [Web動画付] 第3版: 徒手運動療法のための筋筋膜経線』

 

 


失敗から学ぶギックリ腰の対処法!


首こり(首コリ) ギックリ腰の対処法をあやまった実例

 患者さんがギックリ腰になってしまったのですが、その後の対処法が不適切だったために、さらに悪化してしまった実例を紹介します。

 厳しく寒い冬と冷房病にかかりやすい暑い夏にギックリ腰が多いのですが、やはり寒い冬が一番リスクの高い季節になります。

 

 ある患者さんの話ですが、寒い冬に自宅の玄関で整理整頓の作業を中腰(ちゅうごし)でしていた時に腰がギクッと鳴ったのが聞こえ、直後から腰の痛みが襲ってきました。

 歩くのも困難な中、なんとか近所の整骨院に行きました。その整骨院ではギックリ腰の初日だと伝えたはずなのに30分以上かけてたっぷりと患部である腰をマッサージしてしまったのです。マッサージを受けている時は少し痛いものの、気持ちよさもありました。でも自宅に帰る頃には痛みがどんどん強くなってしまいました。夜も腰の痛みが強くて安眠できませんでした。

 その翌日も同じ整骨院に行き、マッサージして帰宅後に腰痛が悪化した経緯を伝えたのにまた前日と同様に患部に強めのマッサージをたっぷりとされました。やはりマッサージ中は気持ちよさを感じるものの帰宅後には悪化しました。合計3回もマッサージをしては悪化するという失敗を繰り返してしまったのです。


首こり(首コリ) ギックリ腰の急性期(初日~3日目まで)の対処法

 それでは前述の患者さんはどうすれば良かったのでしょうか?確実に言えることは、急性期の患部へのマッサージNGです。絶対にダメです!

 急性期冷やして炎症を抑える」のが基本です。

 例えば、足首の捻挫をした日に整形外科を受診したらお風呂は入らないように言われます。なぜかと言うと、足首の捻挫した患部には炎症があるからです。急性期(最初の2~3日)は炎症がひどいのでアイシングで患部を冷やしたり、湿布薬(経皮消炎鎮痛薬)を貼って炎症を抑えるのが医学的に正しい対処法になります。


首こり(首コリ) 「急性期」の患部へのマッサージはNG

 

 

 

 

 急性期の患部へのマッサージは炎症を抑えるのとは正反対の行為です。炎症を抑えるどころか助長してしまうのです。火に油を注ぐようなものです。マッサージすることで血行を良くしてしまうと炎症が広がってしまいます。同じ理由で、お風呂に入って長湯するのも血行を良くして炎症が広がり、痛みを強くしてしまうのです。

 百歩譲ってマッサージをするにしても患部である腰は絶対に避けなくてはいけません。痛めた患部は炎症があるので、その炎症を抑えるためには、やはりマッサージよりも湿布薬や(短時間の)アイシングを優先した方がよいでしょう。


首こり(首コリ) 「回復期」のマッサージはOK

 急性期(最初の2~3日)が過ぎ、「回復期」のマッサージはOKです。むしろ積極的にマッサージなど血行を良くすることをすべきです。炎症のある急性期を過ぎて「回復期」では“温めて治す”のが基本です。もちろんお灸や温泉などの温熱療法もかなり有効です。

 そのような訳で、炎症の「急性期」は温めない、その後の「回復期」は温めて治す、という原則を覚えておくと生活の中で役立つと思います。

 

 


慢性腰痛症の鍼灸治療


腰痛

腰痛 腰痛は国民病のひとつ

 

 腰痛は国民病とも言われるほど日本人に多い症状のひとつです。一言で「腰痛」と言っても原因や症状の出方は様々です。

 

 腰痛の分類としては、特異的腰痛(原因が特定できるタイプ)と非特異的腰痛(原因が特定できないタイプ)に分けられます。原因が特定できない非特異的腰痛が85%なのに対して、原因が特定できる特異的腰痛は15%だけという驚くべきデータがあります。多くの腰痛は原因不明ということになります。

 NHK健康チャンネル「腰痛の原因」では、日本整形外科学会の調査で日本人の腰痛を患っている人が推計で約3000万人いるというデータを紹介しています。

 厚生労働省「平成28 年 国民生活基礎調査の概況」によれば、症状別の有訴者率(病気やけが等で自覚症状のある割合)で、男性では1位:腰痛、2位:肩こりになっており、女性でも1位:肩こり、2位:腰痛となっています。

 


腰痛 慢性腰痛症の原因は?

 

 前述したように特異的腰痛(原因が特定できるタイプ)は15%のみですが、その中でも原因が「」にあるのか?「筋肉」にあるのか?が大切なポイントになります。

 

 「」が主な原因となる腰痛に腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離症・すべり症などがあります。これらは特異的腰痛(原因が特定できるタイプ)になります。正確に言えば、腰椎椎間板ヘルニアは背骨(椎骨)と背骨の間にあってクッションの役割をしている椎間板が飛び出すことで神経を圧迫している状態ですが「骨」関連の腰痛とみなします。「骨」関連の腰痛の場合は、骨が神経を物理的に圧迫するなどして炎症や痛みを起こしていることが多いので「骨」関連の腰痛に鍼灸治療をしても効果的ではないケースが多いのですが、前述したように原因不明の腰痛が全体の85%になります。

 

 「筋肉」が主な原因となる腰痛は鍼灸治療でも効果的なケースが多いと思います。「筋肉」関連の腰痛は一時的に硬くなっているケースでは緩めることができますし、慢性的に筋肉がガチガチに硬くなっているケースでも時間をかけて緩めるようにしていきます。

 


腰痛 原因が特定できない腰痛について

 

 前述したように原因不明の腰痛が85%を占めているのですが、2015年に放映された『NHKスペシャル  腰痛・治療革命~見えてきた痛みのメカニズム~』は従来の常識を覆す画期的な内容でした。要約すると、原因不明の腰痛に苦しむ患者さんたちの原因が「」にある可能性がある、というものでした。不安感や恐怖心が強いと「」が痛みに敏感になってしまうのです。運動療法や心理療法、認知行動療法などで不安感や恐怖心を軽減してあげることで原因不明の慢性腰痛症も改善していく人たちが少なからずいるというのです。

 

 心理的なアプローチから原因不明の腰痛が改善する可能性があるというのは朗報だと思います。私の鍼灸治療の経験からも、不安感が強い患者さんは痛がりだったり、痛みの症状が長く続いてしまうケースが多い傾向があるように感じます。今までいろんな治療をしているのに改善せず、不安感や日々のストレスが強い自覚のある方は心理的な面から治療してみるのも良いのかもしれません。

 


腰痛 慢性腰痛症の鍼灸治療

 

 個人的な治療経験から言えることは、腰痛症で「腰」だけが問題というケースは非常に少ないということです。ということは「腰」だけを治療して筋肉をゆるめても一時的に楽になるだけでしばらくすると戻ってしまいます。

 頭を支えている背骨は首から腰までつながっています。背骨は、頭から骨盤(仙骨)まで一本でつながっていますが、頭の方から頚椎・胸椎・腰椎と区別されて呼ばれています。そして、背骨に沿ってついている脊柱起立筋は、上半身の姿勢の保持に大いに関わっています。脊柱起立筋の伸縮が正常であれば、背中を曲げたり、反ったりする動作もスムーズですが、いつも猫背などの姿勢ばかりでいると脊柱起立筋群の筋肉がロックされた状態になります。すると筋肉の伸縮がスムーズでなくなり、背中を曲げたり、反ったりする動作にも支障が出てしまいます。結果として腰痛や背中痛・首痛などにつながってしまいます。

 

 腰痛の鍼灸治療では「腰」以外にも首・背中・臀部などのツボ(経穴)にも施術して治療します。筋肉は連動してつながっている、ということです。以上が「腰」だけ治療してもダメな理由になります。

 


腰痛 腰痛症と仙腸関節の関係

 

仙腸関節のイラスト

 他にも「仙腸関節」がロックされた状態で腰痛が引き起こされることもあります。仙腸関節は骨盤の真ん中にある仙骨とその左右に接合する腸骨から成り立っていますが、その仙骨と腸骨の接合部分である仙腸関節にズレやネジれが起こることで骨盤のトラブルになり、腰痛や臀部痛などになってしまうことがあります。仙腸関節のトラブルも鍼灸治療で対応できるケースが多く、改善が期待できます。また治療するだけではなく、仙腸関節のズレを自宅で改善できるセルフケアのやり方も生活指導の中で行っています。

 


腰痛 原因が特定できない腰痛の鍼灸治療

 

 前述したように原因不明の腰痛の原因が「」にある可能性があり、不安感やストレスを解消することで「」の働きを正常化してあげると不思議と痛みの症状も改善していくことがあることが分かってきています。自律神経のバランスが崩れた状態とも言えます。

 

 鍼灸治療は「」だけでなく「」も癒す効果が期待できます。鍼灸治療することで自律神経の崩れたバランスを整える効果も期待できるからです。現代人はストレスにさらされて過緊張の人が多いので自律神経のうちの交感神経が働きすぎている状態です。『NHKスペシャル  腰痛・治療革命~見えてきた痛みのメカニズム~』で紹介していたように「脳」の働きも低下し、痛みの症状を強く感じやすい状態になります。自律神経のバランスを整えることで「脳」の働きも正常になり、痛みの感じ方も改善が期待できるのだと思います。

 

 

腰痛 参考文献

 

・『自分でできる! 筋膜リリースパーフェクトガイド 筋膜博士が教える決定版』 竹井仁
・『1日1分 筋膜リリース -痛みとこりがラクになる』 滝澤幸一
・『慢性疲労は首で治せる!』 松井孝嘉

・『枕革命 ひと晩で体が変わる』山田朱織

・『アナトミー・トレイン [Web動画付] 第3版: 徒手運動療法のための筋筋膜経線』

 

 


腰痛の古典的鍼灸治療


腰痛

経穴学書『黄帝内経明堂』に記載される腰痛症の治療法

 

 2000年以上の歴史がある鍼灸治療ですが、古代中国人は腰痛の鍼灸治療をどのように行っていたのでしょうか。ツボ(経穴)の効用を学問する経穴学書のひとつ『黄帝内経明堂』をヒントにして見ていきたいと思います。

 

 「腰痛」を基本として「腰脊痛」「腰脊背痛」などの類似のワードも含めてツボ(経穴)の学術書である『黄帝内経明堂』を調べてみました。それによって腰痛症を改善するためのツボ(経穴)が明らかになります。


腰痛の治療穴で最多なのは膀胱経のツボ達

 

 経穴学書『黄帝内経明堂』に記載されている「腰痛」関連のワードを調べた結果は、次のようになりました。

 多い順から、膀胱経のツボ(経穴)が28穴、次いで胆経が6穴、肝経が5穴、督脈・胃・腎経が4穴、任脈・脾・小腸経が2穴、大腸経が1穴となっています。

 腰痛によってダメージを受けて痛んでいる筋肉を考えれば、膀胱経上にあるツボ達が最も多く選ばれているのは当然だと言えます。

 

 下図(膀胱経脈図)を見て頂ければ納得できるのではないでしょうか。頭頂部から首・背中・腰・臀部を通って足の踵(かかと)まで下りていっています。腰部にある腎兪志室といった定番のツボはもちろん書かれてありますが、大杼・肺兪などの背中にあるツボや上・次・中・下髎などの臀部にあるツボ、承筋・承山・飛陽などの脹脛(ふくらはぎ)にあるツボ、昆侖・僕参・申脈などの(かかと)まわりにあるツボ等々。膀胱経のライン上にあるツボ達の中から、ホントにいろんな部位のツボを腰痛治療のツボとして選んでいます。

 

 

『類経図翼』三巻・足太陽膀胱經圖註

■『類経図翼』三巻・足太陽膀胱經圖註:緑線「気の流れ(流注)」青の囲み線『黄帝内経明堂』の「腰痛の治療穴」になります。

 

 以上からも腰痛だからといって腰部のツボだけを使うのではなく、他の背中や臀部、ふくらはぎ、踵(かかと)などのツボも使っていたことが分かりました。


 鍼灸医学から診れば、ギックリ腰ギックリ背中、そして首の寝違えも同じ膀胱経のライン上を病んでしまったが故に症状が出てしまっているパターンと捉えることができます。その時の身体の状態で一番弱い部分に症状が出やすいだけなのです。その場合は、治療も膀胱経のライン上を意識して圧痛点を探すという治療になります。


腰痛の治療穴で意外に多かった肝・胆経のツボ達

 

『類経図翼』三巻・足少陽膽經圖註
■『類経図翼』三巻・足少陽膽經圖註:緑線「気の流れ(流注)」青の囲み線『黄帝内経明堂』の「腰痛の治療穴」になります。

 

  前述した通り、腰痛の治療穴として最多の膀胱経28穴ですが、その次に多いのが胆経肝経になります。上図(胆経脈図)をご参照ください。胆経は、身体の側面 ― 脇腹なども通っているので、ひねって痛めた腰痛のタイプでは胆経のツボが選ばれるのはよく分かりますが、肝経のツボは意外に多かった印象です。肝経のルートは、足の指先から足の甲を通り、脛(すね)の内側を上り、太ももの内側を抜けて、お腹のやや外側を通って季肋部に至ります。

 

 余談ですが『黄帝内経明堂』では、章門というツボが胆経の所属とされていますが、現在の鍼灸学校で使用されている教科書『経絡経穴概論』では、章門穴は肝経の所属になっています。

 


腰痛の治療穴で意外に少なかった腎経のツボ達

 

 五臓六腑の中では、膀胱と腎は表裏の関係と言われ、とても密接です。他にも、鍼灸医学の原典とも言える『素問』脈要精微論篇では「腰は腎の府なり(腰者腎之府)」と言われているように「」と「」とは密接な関係性にあります。膀胱経のライン上にある腎兪という名のツボも腰痛の治療穴として書かれています。

 

 腰痛のツボとして腎経が4穴だけなのは意外に少ないというのが正直な感想です。確かに実際の針灸治療の現場では、膀胱経のツボでだいたい対応できてしまいます。経穴学書『黄帝内経明堂』がそれだけ実践的内容を書き記してくれているという事なのかも知れません。


 以上、鍼灸医学古典の腰痛の治療穴を調べることで東洋医学の身体観や治療の見立て方などを紹介することができたと思います。面白いのは、現代の筋膜リリースアナトミー・トレイン(筋筋膜経線)などと共通するところが多い点です。筋肉は単独で存在しているのではなく、連携して“つながり”の中で存在し、協調しながら機能している、という身体観です。それが二千年以上前にすでにあったのですから、ただただ驚くばかりです。その智慧を活かそうと思えば、治療だけでなく、自宅でのセルフケアでも活用することは可能です。ぜひお役立てください。

 

 

参考文献

 

・『黄帝内経明堂』(北里研究所東洋医学総合研究所医史学研究部 発行)
・『経絡経穴概論』(医道の日本社)
・『張氏類経・張氏類経図翼』(東豐書店 印行)

 

 


坐骨神経痛の鍼灸治療


 

坐骨神経痛とは

 「坐骨神経痛」は、腰からお尻や太もも裏を通り、足の指先まで伸びている坐骨神経がさまざまな原因で圧迫されることで、痛みやしびれ、灼熱感などが出る症状のことをいいます。「坐骨神経痛」は、病名ではなく、症候群の総称になります。

 坐骨神経は、人体の中で最も長い末梢神経になります。坐骨神経のルートは、腰・お尻から太腿を通って足の指先までありますが、坐骨神経のルートはとても長いので、痛みやしびれ感などの症状が坐骨神経に沿っていろいろな部位に出ます。

 

 例えば、痛みやしびれ感がお尻だけに出るケースもあれば、お尻に加えて、ふともも(太腿)の後ろ・脛(すね)・足先まで症状が出てしまうケースもあります。

 

坐骨神経痛の主な原因

 坐骨神経痛の主な原因としては、【骨】由来の腰椎椎間板ヘルニア腰部脊柱管狭窄症などがあります。他にも、主な原因が【筋肉】由来の梨状筋症候群という場合もあり、鍼灸治療がとても効果的なケースになります。


腰椎椎間板ヘルニア(ようつい ついかんばん ヘルニア)

 

 背骨(椎骨)と背骨の間にあり、クッションの役割をしている椎間板が外に飛び出してしまい、神経を圧迫している状態が「椎間板ヘルニア」です。腰から下半身にかけて痛みが出ます。

 

 

椎骨と椎間板のイラスト

 

 

 

腰部脊柱管狭窄症(ようぶ せきちゅうかん きょうさくしょう)

 

 脳からお尻まで背骨の隙間を縫うように脊髄が通っているのですが、その隙間のことを「脊柱管」といいます。さまざまな原因で「脊柱管」が狭くなることで神経を圧迫している状態が「脊柱管狭窄症」です。

 

 

 腰部脊柱管狭窄症の代表的な症状として、歩行と休息を繰り返す間歇性跛行(かんけつせい はこう)と呼ばれる歩行障害があります。連続して長い距離を歩くことができません。それに加えて、下半身の痛み・しびれ・麻痺などが出ます。

 

間歇性跛行のイラスト

 

 

 

梨状筋症候群(りじょうきん しょうこうぐん)

 

 梨状筋はお尻を横切るようについています。梨状筋の過緊張によって直下を通る坐骨神経が圧迫を受けることで坐骨神経痛が引き起こされます。

 

 梨状筋症候群は、股関節を内旋・外旋させることで、痛みが出たり、緩和したりします。梨状筋症候群の診断をする際に、股関節の内旋・外旋をして痛みが誘発されるかどうかで判断します。

 

 

梨状筋症候群の解説イラスト



西洋医学の主な治療

・薬物療法(鎮痛剤など)
・神経ブロック療法
・理学療法(リハビリテーション)
・外科的手術

 


改善法 & 予防法

・正しい姿勢
・冷え性改善
・運動
・ストレッチ体操

 

 


坐骨神経痛の鍼灸治療

 坐骨神経痛のほとんどの場合、腰部や臀部などに筋肉の過緊張があります。腰部や臀部を中心とした下半身の特定のツボに圧痛として反応があるケースが非常に多いです。それらの反応を頼りに鍼灸治療を施していきます。

 

 神経痛は、基本的に、冷えると痛みが増悪し、温めると痛みが改善します。昔から温泉が神経痛に効果があるのは周知の事実ですね。そのような訳で、圧痛の反応があるツボに針することで筋肉の緊張を緩め、お灸することで血流を良くして神経痛を改善します。

 

 坐骨神経痛の主な原因が【筋肉】由来の「梨状筋症候群」のケースでは、鍼灸治療がとても効果が出やすいのでぜひお試しいただければと思います。


脊柱管狭窄症の鍼灸治療


 

腰部脊柱管狭窄症とは

 腰部脊柱管狭窄症の症状としては、間欠性跛行・膀胱直腸障害・坐骨神経痛やしびれなどがあります。

 その原因としては、加齢現象(老化)によって脊柱管を構成する背骨や靱帯・椎間板などに変形などのトラブルが起きることで脊髄の神経が圧迫を受けることで、間欠性跛行・膀胱直腸障害・坐骨神経痛やしびれなどが起こります。


症状その1 間欠性跛行

 「間欠性跛行」というと分かりにくいですが、歩いていると下肢(太もも裏やふくらはぎ・すね)に痛みやしびれを感じて歩くことができなくなる症状のことをいいます。

 

 典型例だと、前かがみ(前屈)がラクで、体を後ろに反る姿勢でツラくなります。他にも下肢に力が入らない感覚になることもあります。


症状その2 膀胱直腸障害

 おしっこ(排尿)や便意(排便)のセンサー異常が起こります。その原因としては、排尿や排泄に関連する神経や筋肉がうまく機能しなくなることで、膀胱障害(排尿困難・残尿感・頻尿・失禁など)や直腸障害(排便困難・便失禁・便秘など)の症状が出てしまいます。

 以上の腰部脊柱管狭窄症の症状として出てくる「間欠性跛行」「膀胱直腸障害」は脊髄神経が圧迫されたり、ダメージを受けることが原因として考えられます。


タイプ別脊柱管狭窄症

馬尾タイプ

 脊柱管の内側のトラブルによって馬尾神経が圧迫を受けることで、両下肢の痛み・しびれだけでなく排尿・排便障害などが起こります。


神経根タイプ

 脊柱管の外側のトラブルによって馬尾神経から枝分かれした神経根が圧迫されることで、片側(または両側)の下肢痛やしびれなどの症状が出ます。


混合タイプ

 馬尾タイプと神経根タイプの両方が混在したタイプになります。


必ず画像診断を!

 下肢の痛みやしびれ・間欠性跛行などの症状は、腰部脊柱管狭窄症だけのものではありません。他にも、椎間板ヘルニア糖尿病性神経障害などでも似たような症状が出ます。

 診断を確定させるためにも必ず医療機関で、X線・CT・MRI検査などの画像診断を受けることを強くお勧めします。正しい診断あっての正しい治療につながるのだと強く感じます。


神経根タイプは先に鍼灸治療を!

 西洋医学では、保存療法(神経ブロック注射や鎮痛薬などの薬物療法、コルセット・ストレッチやリハビリ療法など)と手術療法(除圧術や除圧固定術など)があります。

 前述したように腰部脊柱管狭窄症にも馬尾タイプ・神経根タイプ・混合タイプの3タイプに区別することができます。その中でも「神経根タイプ」については鍼灸治療が効果的なケースが見られますので、外科手術をする前に鍼灸治療を試してみる価値もあるのではないかと思います。